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お前のそれは料理じゃない、極めて高殺傷力な兵器だ!

「ねぇねぇレティカさん、台所貸してよ!」

と、市場で調達してきたらしい食材を抱えたカリィがレレンティカの宿を訪れたのが、小一時間前。
その後、エプロンまで借りたカリィが鼻歌をうたいながら楽しげに調理すること約三十分。
そして、今に至る。


食堂のテーブルに、何かよく分からないものが載った大皿があった。大皿を前に、ナイフとフォークを握ったカリィが硬直している。
そんな食卓のかたわらを、偶然、シズが通りかかった。

「おや? そんな緑か紫か茶色かわからない物体を前にして、いったいどうしたのかな? 卵だけは卵焼きをしているようだが、匂いだけが美味しそうでかえって不気味としか言いようがない」 

カリィが天井を仰いだ。

「食べれるものを使って料理すれば、食べれるものができるはずだ。と、信じてる」

興味深そうに、シズは目を細める。

「信じるものは未来を拓く、とはよく言われている」
「皿から遠ざかりながらもっともらしいことを言っても説得力はないねぇ、シズ」

様子をうかがっていたレレンティカが、ため息まじりにかぶりを振った。ぽん、と、カリィの肩に白夜が手を置く。

「誰だって失敗くらいするよ」
「君に慰められる日が来るとは思ってなかったな」
「あぁ、手が勝手に」

鈍い音がすると同時に、カリィが頭を抱えた。そしらぬ顔で、白夜は手にしていた花瓶をもとの位置に戻す。交差したナイフとフォークが置かれているかのような、テーブルにつっぷしているカリィの頭を、レレンティカが一瞥した。

「ところで、それ、どうするんだい?」

衝撃から復活してきたカリィがのそりとレレンティカを見遣る。

「しょぶ……」

そこに、荘厳な調子の、シズの声が流れこんだ。

「君は既にひきかえせないところにまで来ている。気づいていないのかな?」
「は?」
「そう、それは、卵というものを食材としてしまった時点で、確定してしまったのさ!」
「はぁ!?」
「それはゼーレヴィアにてかなりこっそりと囁かれているような気がしなくもない噂。すべての生命の母たる鶏は、時に頭と身体に分離し、互いを求めてさまようという。あたまどこーとか喋りながらふらつく頭なし鶏! なんておそろしい! そして、卵を奪われた母鶏は、強奪者を赦すことはないという。というか、復讐されるというぞ! ましてや卵をダークマターへと変化させるなど言語道断!」

勢いよくシズが白夜を指差す。

「ちょ」

抗議の声をあげて身を乗り出した白夜の視界をふさぐように、カリィが立ち上がった。

「卵だけなら成功してるって卵焼き!」
「そんなことは関係ない。君が卵を玉子焼きにしてしまったというその事実! その事実こそが、怒りに震える母鶏をこの宿屋と呼び寄せる最終兵器そのもの!」
「ちょっと、ふたりとも無視するとかひどくない?」

にぎやかさを増してきた三人を眺めながら、レレンティカは肩をすくめてみせる。

「何いってるのか意味がわからないけれど。物が壊されなければ、よしとするか」


【お前のそれは料理じゃない、極めて高殺傷力な兵器だ!】 by 招き猫

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