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星の下のお茶会

「こんばんは、レティカ殿」
 城隍廟を訪れたレティカを見、そう口を開いたのは住人である隻真だった。
 既に日はとっぷりと暮れていた。季節は夏に差し掛かり始め、夜が短くなったとはいえこの世界の夜は暗い。頼りになる明かりは蝋燭の明かりや、月の光、星の瞬きのみ。
 レティカは暗がりを気にすることなく足を踏み出した。
「こんばんは。急に来て申し訳ないね」
「なに、気にすることはない。いつでも準備はできている」
 レティカの突然の訪問に隻真は特に慌てることはなかった。彼女を招き入れると、手馴れた動きでささっと茉莉茶と月餅を準備してきた。
「ほんと、いつ来てもすぐに準備できてるねぇ……逆に感心しちゃうよ」
 茶器を片手にレティカはそう呟いた。
 ゆらゆらと揺れる綺麗な液体を暫く眺めると、こくりと一口流し込んだ。口の中に広がる芳香と味に、思わず口元がにやけてしまう。
「うちじゃあ出せない味だねぇ」
「それは良かった。レティカ殿のとこで似たようなものを出されてしまったらたまったものではない」
「ふふ。まあ、その方が私もこの味を楽しみにできるってもんだね」
 レティカはいつも作る側の方が多く、作ってもらう側になるのは多くない。それはゼーレヴィアで宿屋を始めようと決めたことよりも、ずっと前から。
「こんな夜中にずっと居座るのも迷惑かな?」
「夜は長いものだ。ゆるりとお茶を楽しんでいかれよ」
「そんなこと言われると朝まで居座りそうよ」
 苦笑を浮かべながら月餅を齧る。ああ、至福の時かな。
「……でも、まあ。朝の準備もしなくちゃいけないしねぇ。早々にお暇するわ」
「また来ればいい。いつでも準備はできているからな」
「ありがとう。また突然お邪魔するわね」
 星が瞬く空の下で、静かなお茶会は幕を閉じた。

お題 by 花涙

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