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祖は祝福を奏でて

「珍しいこともあったものだ」

図書館の片隅、本棚と本棚の間。
本棚を見上げて本を物色していた俺は、投げかけられた声に目線を落とした。

「やぁ、白夜」
「カリィ君は読書をするようなタイプには見えないのだが」
「うん。読み物さがしてるわけじゃなくて、ちょっと調べもの」
「調べもの?」

そう、と、俺は頷く。

「この街のはじまりについて」
「は?」

突拍子もない返答に、白夜が目を丸くする。

「と、いうか、ゼーレヴィアをつくったのは誰なのか」
「を、突きとめないと気がすまなくなったらしく、レティカさんの宿でご飯たべてたら連行されました」

本を抱えて現れた青年を、白夜は一瞥した。

「おや、メグ?」
「違います」
「さっきまでメグさんだったんだけど、面倒になったみたい」

哀れむような目で、俺は璧歌を見遣った。白夜も俺に倣う。

「気の毒だねぇ」
「言わないでー」

何かのトドメを刺されたらしい璧歌は、頭を抱えてしゃがみこんだ。白夜が俺に向き直る。

「しかし、突然どうしてそんな酔狂を?」
「だって、気になるじゃない? 何が、誰が、はじまりの種を蒔いたのか。隻真さんの言葉を借りれば、始祖ってやつになるのかな」
「貴様、歴史マニア、か」
「そんなことないよ。どちらかといえば、子守唄の別名だと思ってるし」

そこで言葉を切り、俺は背後の本棚に眼を投げた。白夜が首を傾げる。

「でも、今のところ俺がゼーレヴィアで得た情報を総合すると、ゼーレヴィアの始祖は、にわ――」
「きゃあ!」

可愛らしい悲鳴が、本棚の向こうから聞こえた。
白夜が悲鳴の源をのぞきこむ。

「ミーシャ?」

うずくまったまま、呆れ果てた目で、腕の隙間から璧歌は俺を見上げた。

「ひっぱるなぁ」
「なんとでも」

怯えきっているのであろうミーシャを眺め、白夜はため息を吐く。

「おいおい、可愛い女の子をいじめるものではないよ」
「レティカさんの宿からミーシャちゃんがつけてきてたの、気づいてた?」

璧歌の問いに、俺は晴れやかに笑ってみせた。

「まさか」

まったく信じてくれたようには見えない、ふたりの視線が突き刺さる。
夕暮れに抱かれた石畳の街。
世界を創ったのが誰であれ、この時間の礎を築いてくれたことには変わらない。
きっと、降り注ぐ祝福に包まれて、これからも俺たちは過ごしていくのだろうから。
今は、この出会いに、感謝しよう。


お題【祖は祝福を奏でて】 by 花涙

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