『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

03.奈木様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。
 見慣れた後姿だった。隣家の幼馴染である。
 無造作にポケットへ財布を突っ込んで、ちょうど今し方買い物に出かけようと家を出てきたという風情だ。背後から近付いてきた良からぬものにその財布をスリ取られたらどうするのだ、と毎度心配せずにはいられないような大雑把具合で、いつものことながらほとほと頭が痛くなる。
 私は彼の名前を呼んで、跳ねるようにその背中に近付き、拳を見舞った。仰け反って悶絶する彼に、これまで幾度となく口にした注意を繰り返す。
 不用心すぎるから、せめて財布を鞄に入れて持つとか、とにかく何か対策を講じなさい。
「お、お前はそれを言う為に家から出て来て、俺を殴ったのか……」
 信じられない、とばかりの顔で彼は私を見る。私は憮然として返した。
 馬鹿なことを言うものではない。私はそんな暇人ではないのだ。財布を奪って下さいと言わんばかりの鴨を、敢えて見逃して忠告をしてやったのだ。お礼に一つ三百円のアイスクリームを進呈するべきだとは思わないかね。
「それはただのカツアゲじゃねえかよ……」
 何を言う、人聞きの悪い。
 あまりにも遺憾だったので、ついつい肘が出てしまった。それが彼の脇腹を抉ってしまったのは、悲しいかな、不運なる偶然というものである。

 因みに、徒歩三分のコンビニでめでたく私のものとなったお高いアイスクリーム、季節限定トロピカルクリームチーズ味は大層美味しかったことをここに残しておこうと思う。

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