『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

118.あきら様

 蛇王の加護

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。
 長身の男だった。少し長いプラチナブロンドをうなじで束ね、右目に眼帯をしている。
「イーメレイルダー王……」
 十二の神の一柱、蛇王イーメレイルダー。それが今、目の前に立つ彼。背中がすぅっと冷えた。
「俺が君の前に現れた理由、わかりますね?」
 細い瞳孔が、じっとこちらを見詰めている。緑のその目を見返し、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「……はい」
 己のかすれた声に、口の端を歪める。イーメレイルダー王は断罪の神、いずれ対峙することはわかっていたはずなのに。
「私は、罪を犯しました。許されないことだと、わかって。でも、あれは――」
 こちらの言葉を遮るように、イーメレイルダー王は片手をあげた。
「不要です。俺は全て知ってます」
 あげた手をポケットに突っ込むと、彼は何かを投げた。思わず手を伸ばして受け取り、確認して目を見開く。
 断罪の時、蛇王は大蛇の姿を取ると言う。その時のものだろう、明らかに人間のものではない牙が一本、手の中に収まっていた。
 断罪の力は牙に宿る。蛇王の牙を受け取ったということは、つまり。
「今のところ、君に俺は必要ないようです」
 再び響いた声に顔をあげる。冷たく笑う神がそこに。
「その状態を維持出来ている間はそれを君に授けます。使うか否かは君次第、用途もまた然り。もし――」
 ギラリと剣呑な光が、神の目を駆けた。
「――君がそれを持つに相応しくないと判断したら、もう一度会いにきます」
 牙が、嫌な重さを増した。

< 戻る >