『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

32.季都様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。

 ぼんやりとおぼろげだった『ソレ』は、近づくにつれはっきりと輪郭を得ていった。
 そして、見えたのは顔のない女。
 さっと視線を逸らす。
 またか……。
 僕は、そういった良くない『モノ』が視えやすい性質で、それ故、これまでも面倒事に巻き込まれる事が多々あった。
 気づいてくれるなよ・・・・・・。
 そう心の中で祈りつつ、横を通り過ぎようとした。
 ――が、しっかりと右肩を掴まれてしまった。

 物凄い力で僕の肩を掴む『ソレ』はパーツのない顔を近づけ、口もないのに濁った声で叫ぶ。

「私の顔返してえええええええええ!!」

 次の瞬間、僕は『ソレ』の右腕を掴み、

「そぉい!!」

 一本背負いをした。
 鈍い音を響かせて背中からアスファルトに叩きつけられた『ソレ』は声にならないうめき声をあげ、そして沈黙した。

「成仏しろよ」
 僕はそう言い捨てて、足早にその場をあとにした。
 すぐそこまで秋がやってきているのだ。めんどくさい夏はこれでおしまい。

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