『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

39.ゼンメツ様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。

 あなたはそれを"秋"だなんて、
 そう指さしてしまい
 いつ、という針から目を逸らしてただ、長く口付けていたかっただけなあたしの季節はいま、という量りを溶かしてどこ、へ
 かすれて、しまうの、ですか?
 あんなにも自分で産み出した汗と、
 今日たまたま終えた日はもう、失われてしまったものなのだから

 他人の声、
 真上に掛かった雲、かさなった風、
 はだを切る言葉ひとひら、
 それらはいま以降のいつかに見るものとはきっと別物で、
 でも、あたしにはなにひとつ区別がつかない
 ねえ、あなたはこの気持ちを
 なんだと決め付けますか

 あたしも、
 それに"秋"と名付けました
 なのでいまからそれが、秋なのです
 たとえいま、この目にこの口に、汗がいくど入り込もうとも
 いまからそれが、秋なのです

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