『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

51.ジジ様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。
 これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。

 小学生高学年くらいの男の子が流れる涙をごしごしと乱暴に拭っている。
 そのまま通り過ぎてしまうことができなかった私はその少年に声をかけた。

「君、大丈夫?」
「…」
「あ、えと、そんなにさ、こすったら赤くなっちゃうから」
「うっせーよ!ほっとけ!ブス!」

 私は笑顔で少年の頬をつねりあげた。んだとコラ。もう一回言ってみろ。

「いだだだだだっ!」
「何だって?」
「ぶふ!」
「うん?」
「…らんれもらい」
「良い子良い子。何でもないよね、うん」

 頬から手を離すと少年が頬をさすりながら私を睨んだ。
 いくら私がお節介をしたとはいえ、初対面の年上の女性に対しての「ブス」は教育的指導が必要だと思うので私は悪いことをしていない。
 むしろ慰めてやろうと声をかけたのに何その態度。最近の小学生ってほんと生意気。

「なんで泣いてるのかは聞かないから、とりあえずごしごし擦るのやめな?」
「…」
「…はぁ、優しいお姉さんがそこのコンビニでアイスでも買ってあげようじゃないか」
「アイス?」
「落ち込んだ時は甘いものがいいの!知らないけどたぶん」
「たぶんかよ」
「いたいけな女子高生が少ないお小遣いから奢ってやろうと言ってるのになにその態度」
「べ、べつに奢ってほしいなんて言ってねぇだろ!」
「嫌ならいいよー。一人で食べるし。そこで泣いてれば?」
「う…」
「人間素直が一番。泣きたいなら泣けばいいよ、でもさ、男なら見えないとこで泣きなよ。カッコ悪いじゃん」
「だって」
「理由は聞かないってば。ほれほれ、アイス食べよ!コンビニ行こ!」
「う、うん」

 全然知らない少年にアイス奢って二人並んで食べるとは夢にも思わなかった。
 夏の暑さが容赦なくアイスを溶かしていくと同時に私の脳も溶かしちゃったのかもしれない。
 アイスを食べ終わる頃にはすっかり立ち直った少年と「じゃあね」と言って別れた。
 10年後まさか再会して結婚までするとはこの時考えもしなかった17歳の夏の出来事。

< 戻る >