『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

54.ファウスト様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。

 それは、涼しい風だった。
 生まれたばかりで生命力に溢れた夏の暑さなど
 どこ吹く風といったようにクールな風。

「君はいつも涼しげだね」
「今日は幾分暑さも和らいでいますからね」

 明日はもっと涼しくなるだろうか。
 少しずつ、毎日が変わる。
 変わり続ける季節と変わらない風。

「君は、どこにもいけないのかな」
「風はそこにあるだけです。どこにでもいるし、すぐに消えます」

 変わらない、終わらない季節があるのなら、夏がいい。
 きっとうんざりするだろうけど。
 うんざりするのは嫌いじゃない。

「たまには家においでよ。その風で涼ませてくれ」
「エアコンディショナの導入を薦めますね」

 これは、夏の暑い日のこと。
 数十分前、私が外出しようと思い立った理由。
 その日、秋葉原の電気屋さんから一台の白くまくんが出荷された。

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