『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

64.ぱらしゅー様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。うわああいつ汗かいてねぇー。
女みたいに色白なヤツだ。まぁ、オレよりちょーっと背は高いけど? でも見るからに弱そうだ。
このクソ暑い中ランドセルかけてるし、有名塾に通うために街から来たヤツに違いない。
「おい、てめえ」
「何でしょうか?」
 そいつはくいっとメガネを押し上げた。けっ、気取りやがってよ。ちょうどいい、教えてやるか。
「そこで待っててもバス来ねえよ」
「マジですか?」
 色白の声がオレがびっくりするくらい裏返る。見かけによらず抜けてると見える。
「ああ」
 オレはバス停を蹴っ飛ばした。裏返っていた張り紙がぐるっと一回転して
『このバス停は2011年をもって廃止されました』という一文が現れる。
「うわー、どうしましょ」
 色白は元から青白い顔を更に青くして、額を細い手で押さえた。気を失われては困るのでオレは言った。
「ついてこい」
「はい」
 おとなしくヤツはオレについてきた。それにしてもあっちぃなープール入りてー盆休みとか学校ふざけんな。
帽子も忘れてきたから後頭部が暑いのなんの。前に一本伸びるオレの影に汗がぽたり、ぽたりと落ちた。
 おっと、後ろのヤツは都会っ子だから俺以上に熱中症に注意しないといけねぇや。振り返る。
「おい、おま……えぇ?」
 色白は、オレのすぐ後ろに立っていた。小さい前ならえでもこんな近くにいねぇぞってくらい。
そして熱中症より貧血を心配したくなるくらい涼しげな顔。
「どうかしましたか?」
「いや、塾まで歩くとけっこーあるからさ、大丈夫かと思ったけど大丈夫みてぇだな」
「はあ? 塾?」
 いきなり息巻く色白。おい顔近いのに暑苦し……くない。むしろ涼しい。
「ぼくはお墓に行くつもりなんですけど!」
「ああ? ランドセルで墓参りかよ?!」
「いえ入りに行くんですけど」

 ツクツクボーシが鳴いている。色白の後ろに夕陽が透けて見える。こいつの影は、ない。
「ぎゃああああ! お前、お前、幽霊だったのかああ!」
「知ってて助けてくれたんじゃないんですか!?」
「いやあああオレもう帰る!」
「逃がしません」
 色白は俺の手首を握った。ひんやりしてて一瞬癒されかけたがそんな場合ではない。
振りほどこうとしても、ヤツの力は異様に強くて離れない。げええええー。
「さあ、早くぼくをお墓へ連れていってください!」
 ふんぞり返る色白、沈みゆく太陽、迫りくる夜。
 オレはしばらく帰れそうにない。

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