『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

71.夕暮小道様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。
 髪を切ったばかりの短い黒髪に、野郎にしてはほっそい手足。後ろから見ているから余計に分かる撫で肩は鞄のベルトをかけるのにいつも苦労している。着古したジーンズに、白いシャツ。前面のプリントは見なくたって分かった。

 俺と同じ顔をしたそいつは、振り返った瞬間、驚いた表情を残して掻き消えた。



「……。…………いや、うん」
 理解不能の現象を目の前に、人というのは自己防衛の為に思考停止をするようだ。
 白昼夢を見るほど疲れているのかと思いながら先へ進む。
 一歩、二歩、三歩。

 ふと、背後から視線を感じて振り返った。



 俺と同じ顔をしたそいつと目が合った瞬間、俺は「ああやっぱり」という表情で消え失せた。



 いつまで続くんだろう。
 そんな事を、思う間もなく世界は続く。

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。

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