『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

76.鋼雅 暁様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。
 気付いたと同時に、俺は横へ飛んでいた。飛び上がった瞬間、何かが足元で弾けた。
 さっきまで俺が立っていた場所に、手裏剣が突き刺さっている。
「うっ!?」
「わたしだ。いざ尋常に勝負せよ!」
 時代錯誤な台詞をまき散らして、時代錯誤な武器で襲い掛かってくる美少女は、時代劇に出てくる女忍びの格好だ。
 恰好だけでなく、こいつは間違いなく忍びで、なぜだか俺をしつこく襲ってきているのだ。
「お前、この暑さの中で俺を待ち伏せしていたのか?」
「わたしがその様な愚かな真似をするはずがないだろう? お前の家に潜み、お前の思考を読み、お前が外に出たくなるように仕向けたのだ」
 そんなばかな。
 俺が外へでようと思ったのは、たまたまのことで。
 しかも、そう考えてから数十分は経過している。
「ありえないだろ! お前に操られるわけがない」
「忍びを舐めるなっ! くらえっ!」
 次々飛んでくる手裏剣をかわして、俺は家に駆け戻った。
「なんで……俺はこの夏中、あいつに狙われてるんだよ……」

 玄関に座り込んで、呼吸を整える。
 額から頬にかけて、だらだらと汗が流れ落ちる。それを拭う気力は俺にはなかった。
 なぜって? 女忍びが目の前で笑っている。
「お前が家の中に逃げ込むことなどお見通しだ。さぁ、いざ尋常に勝負せよ!」
「勘弁してぇ……」

< 戻る >