『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

86.吾嘉様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。

 これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。  額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。

「遊びに来ちゃった。」

 ふにゃ、と笑顔を見せる彼女が突然訪問してくるのは珍しくもない。ただあと数分遅ければ入れ違いになるところだった。

「どっか行くの?」

「あー……ちょっとコンビニに。一緒に行く?」

 彼女は頷いてすぐ横に来て歩き始めた。歩く度に揺れる髪、身振り手振りで笑顔で話をする。そんな彼女の話に自然に笑いがでる。

「それで、あのハゲ野郎が……、」

 たまに口が悪くなる。

 数分歩いて踏み切りの前に立つ。ここを越えたらコンビニにつく。汗を拭いながら電車が通り過ぎるのを待つ。ふと彼女を見ると汗をかいていなかった。

「汗、かかないよな。」

 代謝が悪いとかこの前言っていた。

「はは。いいことないよ?暑いのは暑いし。」

 電車が近付いてくると会話がなくなった。
 電車が通過してもあれだけ途切れなかった会話は一つもない。携帯を開くとお昼前。腹減ったような気がする。

「ねぇ、


 私が電車の前に飛び出したらどうする?」

 踏み切りを通り過ぎた後彼女は言った。こんな意味の分からない発言はよくあることだ。
 はぁ、とため息をついて頭をぽん、と叩いた

「そんなこと言う奴にはアイス奢らない。」

「うええ!それは困るでござるよぅ!」

 人の気持ちも知らないでそういうこと言うなっての。アイス奢らないの発言で本気で焦っている。そんなに食いたいか。

「コンビニまで競争。勝ったらアイス奢ってやる。」

 一気にダッシュする。勝つのはもちろん、言わなくても分かる。先にコンビニの前に立つと泣きそうな顔するんだろうな。


 それでも結局アイス奢るんだろうな、俺。

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