『同じ書き出しでどれだけ違うストーリーを作れるか』お試し企画!

93.おびあお様

 たまたま、外へ出ようと考えたのは数十分前のことだ。
 家の外へ一歩出ると、ねっとりとした熱い空気が全身にまとわりついた。これから季節は涼しくなっていくというのに、まだ暑苦しさが残っている。
 額から頬にかけて流れ落ちる汗を乱暴に手の甲で拭う。
 そのまま手を下に下ろすと、少し先に誰かが立っているのに気付いた。

「あおくん、あおくん、あーおーくん...」
 ふみちゃんじゃないか。どうした。俺は名前を忘れてないぞ。言ってやろうか?
「どうしたもないでしょ?さっきからずーっとみてたけどまったく前に歩こうとしないじゃない」
 冷房が恋しいんだよ。俺は元来家から出ない性分でな。突き抜けるような青い空はガラス越しに見ながら麦茶を飲むに限る。
「汗臭い布団干している間、あおくんの居場所はない!布団で寝る以外に早くやること探しなよ」
 で、逆にふみちゃんは何をしているんだ。
「決まってるでしょ?学校よ学校。制服着て外にいて今日は半日午後から!」
 そうか、いってらっしゃい。
「あお君も行くの。だからこうやって外に引っ張り出してきたんじゃない」
 だって教室入りたくない。いつもの場所いっていいか?
「久しぶりに教室にいれば?今日は栞君の退院の日よ」
 シオの退院か。まぁシオと話して授業を寝てボイコットする形でいいやな。
「良くないけど...いつもなら授業も受けないんだし、まぁ成長してるってことで許してあげる」
 許されました。
「さあ、ほら!」
 あー、はいはい。準備しますよ。


 学校で居場所を失った俺はこの太陽の下、灼けたアスファルトの上に漕ぎ出す自転車を重い足取りで取りにいく。
 この双子の姉のエンジンとして、学校へ向かうこと。
 そして彼の退院後の姿を見届けなくてはいけないのだ。

 いくぞ、ふみちゃん。
「え?」
 コレは前からきめた取り決めだ。いくぞー。じゃーん、けーん
「はぁ...ぽん」


 ここで負けることは『すでに決まっている未来』なのだがレールから外れないことが肝心なのだ。



 葵(あおい)は未来を創れた。それは過去、現在形。
 文楽(ふみか)と言う姉には隠していた。コレは現在から未来へ。

 葵は自らの身を削り、血を賭し、命の灯を細めていたことを。

< 戻る >